IoTは、わたしたちの生活を便利に豊かにし、素晴らしいビジネスチャンスにつながる大きな可能性を秘めています。IoTの定義と仕組みについて深く理解できる、おすすめ本を紹介します。
IoT(アイ・オー・ティー)とは「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」と呼ばれています。すべての「モノ」がインターネットにつながることで、生活やビジネスの中にあるニーズや問題点を解決し、便利に豊かになるよう改革する、という考え方と技術です。
この場合のモノとは、ありとあらゆる物質を指します。スマートフォンやパソコンはもちろん、インターネットとは直接関係がなさそうな家具や衣類も、モノと考えます。はっきりした形がなくてもかまいません。
モノには、情報を集めるための「モノ」(センサー)が取り付けられています。センサーは周囲から音や画像、動画、人や動物の動き、温度や湿度、重力など多種多様な情報を集め、インターネット経由で、情報を保存する貯蔵倉庫「クラウド」に転送されます。
そのため、モノは必ずインターネットに接続し続けている必要があるのです。
クラウド上には「サーバー」という多数のコンピューターがあり、センサーが拾い集めた膨大な量の情報を蓄積しています。
サーバーはその情報を、解析ソフトウェアや人工知能(AI)で分析。そして、次に何をすべきか自動的に判断し、実際に作業をおこなうモノにフィードバックします。
モノは「◯◯をしてください」というフィードバックに従い、「鍵を開ける」「車を自動で運転する」「消耗品を自動的に注文する」など、命じられたとおりの作業をおこなうのです。
センサーが情報を集める→インターネット経由で転送する→クラウドに情報が集められる→解析する→作業を指示する→実際に作業をする……「モノ」と「モノ」がインターネットでつながり、同じ情報を共有し、互いをコントロールしあう、この一連の流れがIoTならでの特長です。
IoTを導入すると、スイッチを入れて一定の動作をさせるだけの従来のシステムと比較して、より広範囲で詳細な作業、たとえば「スマートフォンで外出先から自由にコントロールできる」「室内に人がいない時はスイッチが切れる」など、要求に応じた微調整が可能になります。
まずはわかりやすい身近な例として、スマートフォンを使って自動車と同じように家の鍵を開閉できる「スマートロック」で説明しましょう。
スマートロックは、鍵に取り付けられた装置をスマートフォンなどのアプリケーションで制御するものです。スマホを持って外出すると自動的に施錠し、家に近づくと鍵を開けてくれます。
アプリを使って誰かと鍵を共有もでき、また不審者が侵入するなど万が一の異常があった場合、警報を受け取ることもできます。
IoTの効用は、便利さだけではありません。空き巣の原因ナンバーワンといわれる「かけ忘れ」が一切なくなるということは、地域自体の治安が大幅に改善できる可能性につながります。外出する頻度と時間帯を外部に知らせる機能は、高齢者のひとり暮らしの安否を確認でき、認知病患者の徘徊防止にも役立ちます。
人々の身体的データを管理し、健康を促進するための「ヘルスウェア機器」は、もっともIoTの普及が求められている分野です。
たとえば体温計ひとつを例にあげてみても、さまざまなサービスが実施されています。スマートフォンのイヤホンジャックに差し込んで使い、GPSと連動させてそのエリア内で発熱している人の数を計測して伝染病を予知するものや、体温を分析して健康づくりや妊活ができ、何か問題があれば医療機関に誘導してくれるものなどがあります。
またIoTの先行事例として話題になった、Googleの「SMART CONTACT LENS」は、コンタクトレンズで涙の血糖値を測定し、糖尿病患者の健康管理に役立つものです。
このように、IoTは今まで気が付かなかった部分まで、人々の生活をより便利にさせてくれます。このほか、生活を便利にしてくれるサービスや楽しいスポーツグッズの事例もみてみましょう。
夢のような素晴らしい未来に向けて、いいことずくめのように思えるIoTですが、まだ解決が難しい問題がたくさん存在しています。特にセキュリティ問題には、犯罪や人命に関わる深刻な問題が潜んでいるのです。
パソコンやスマホと同じように、IoTネットワーク内のモノ、あるいはサーバーにもサイバー攻撃がされていて、すでに多数のマルウェアによるウイルス感染やハッキングによる被害が報告されています。
もっとも危惧されているのは、インフラと人材不足です。相互に行き交うデータは、どこかの誰かが管理しなくてはなりません。近い将来AIが担うことになる見込みがあるとはいえ、現状では人の手で管理するしか方法はないのです。
IoTを管理するには、アプリケーション開発・データ通信管理・ネットワーク構築・セキュリティ対策など、非常に幅広い知識が必要とされます。しかし、その技術をすべて会得している人は非常に少なく、必要とされる人数を養成するには、大変な時間と人的コストが必要です。
こうした技術者の人材不足や素人ユーザーの操作によるヒューマンエラーは、誤作動や情報漏えいを引き起こす大きな原因になっています。人材の育成や既存技術者のスキルアップは急務です。
IoTならではの難しい問題もあります。モノとモノがつながっている利点と裏返しで、ネットワーク内の何かひとつが攻撃にあった際、関連するシステムすべてに被害が拡大する可能性があるのです。
爆発的に増加しているモノひとつひとつにセキュリティ対策をするには、非常に手間がかかります。監視がしにくい一般家庭や高所、海底に設置された場合など、問題の発見までも長い時間を要します。
機器が長期間使用される場合が多いため、アップデートが追いつかず、システム自体の経年劣化も危惧されるでしょう。デバイスの盗難やデバイスに盗聴器が仕掛けられた事例もあります。
これらの問題点に、ユーザ自身がリスクを認識し強い防御意識を持って機器を扱う、あるいは制度設計をすることが、現時点での最善策といえるでしょう。
パスワード、ID、初期設定を確実に管理する、サポートが充実している製品を使うなど、基本を徹底することが大切です。企業の場合は、人材育成や制度設計の際に、セキュリティ対策を組み込む必要があるでしょう。
しかし、多くの困難があるとはいえ、IoTは爆発的な勢いで普及が見込まれています。障害を乗り越え実現させるだけの価値や、生活や社会を変えられる大きな可能性があるからです。
それでは、IoTがもたらしてくれる未来の日常生活を想像し、より深い理解を得て生活やビジネスに結びつけるために、ぜひ読んでおきたいおすすめの3冊を紹介します。
日立グループ各社の改革に取り組んできた筆者が、経営者ならではの鋭い視点と豊富な知識で、IoTについて指南します。
具体的な企業名をあげた豊富な実例と論理的な考察によって、基礎知識から時代を切り拓く経営戦略まで、幅広く「俯瞰」した視点で把握できます。
- 著者
- 大野 治
- 出版日
- 2016-12-23
IoTネットメディア「IoT NEWS」主宰の筆者による、「明日から使える」IoT入門書です。
豊富な図とわかりやすい文章で、IoTが身近な生活に起こす変化からビジネスと社会構造における未来構想まで、実例をあげながらていねいに解説しています。「IoTとは」がわかる一冊です。
- 著者
- 小泉 耕二
- 出版日
- 2016-04-05
IoT社会の実現を妨げる技術的な課題と共に、監督官庁の姿勢や法制度の不備、消費者のふるまいについて問題提起しています。
IoTを効果的に導入するために、日本企業のビジネスモデルをケーススタディとし、解決策を提案していて、技術と社会構造、両面からの視点を得られるでしょう。
- 著者
- 坂村 健
- 出版日
- 2016-03-10
IoTが当たり前の技術として普及できたなら、生活が便利になり、安全になり、経済的な利益をもたらすうえに、社会の問題まで解決できるまったく新しい未来がやってくるでしょう。これらの書籍を参考にしながら、IoTをこれから自分の生活にどのように役立てるか、ぜひ考えてみてください。